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Article無痛分娩における事故のリスクは?信頼できる医療機関の選び方を解説

未分類 2024.11.21

無痛分娩における事故のリスクは?信頼できる医療機関の選び方を解説

近年、出産時の痛みをやわらげてリラックスした環境で出産したいと、無痛分娩を選択する妊婦さんが増えています。しかし、過去には無痛分娩の事故が報道され、話題となることもありました。

この記事では、無痛分娩の特徴や起こりうる事故の実態・リスク、そして信頼できる医療機関の選び方まで、詳しく解説します。後悔のない出産体験にできるよう、母子にとって最適な出産方法を選択する参考にしてください。

無痛分娩で起こった事故の実態

2017年頃には、母児の死亡や障害につながった無痛分娩の事故について、多く報道されました。同年4月には、日本産科婦人科学会学術総会による妊産婦死亡症例検討評価委員会より「2010年から2016年までの間の妊産婦死亡298例のうち13例で無痛分娩が行われていることを踏まえ、無痛分娩を行う際は、適切に対応できる体制を整えるべき」との緊急提言がされています。(実際は、271例中14例)

そこで、2017年7月には、厚生労働省で「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」が立ち上げられました。まずは、事故の件数や具体的な事例・原因を、厚生労働省の「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について」をもとに解説します。

事故の件数

「研究班による無痛分娩の実態把握の結果」によると、2010年から2016年の間に妊娠中から産後1年以内に亡くなった271例のうち、無痛分娩をおこなっていた妊産婦さんは14例(5.2%)でした。この14例の死因を分析すると、以下のようになっています。

厚生労働省|無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について

出典:厚生労働省|無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について

14例のうち、13例は無痛分娩でなくても起こりうるものであり、麻酔が原因で亡くなられたのは1例でした。

なお、2017年頃に多く報道されていた無痛分娩の事故7例では、4例がカテーテル(麻酔を入れるための細い管)が正しい位置でなかったことによる高位・全脊髄くも膜下麻酔と判明しています。

具体的な事故事例と原因

京都地裁で、2021年3月26日に判決された事例を紹介します。

硬膜外麻酔の処置をする際、医師は針の先端を奥にあるくも膜下腔まで入れてしまい、麻酔薬を一度に注入した。妊婦さんは麻酔が効きすぎた結果、すべての脊髄が麻酔の効いている状態になり、心肺停止になった。

心肺停止後に心臓が働き始めたものの、脳に酸素が届かない時間が長かった影響で脳症になり、植物状態となる。

赤ちゃんは、搬送先の病院において緊急帝王切開で生まれたが、酸素が十分に届かなかった影響で自分での呼吸がうまくできず、さらに全身の臓器障害を合併する「重症新生児仮死」となって誕生した。この子は、6歳で亡くなった。

通常、硬膜外麻酔の針を挿入するときには、医師は専用の針とカテーテルを硬膜外腔に留めたうえで、麻酔薬を分割して注入しなければなりません。この事故の原因は、カテーテルが誤った場所に入っているのに医師が気付かず、麻酔薬をそのまま注入してしまったことと考えられます。

これにより「全脊髄くも膜下麻酔」が起こり、呼吸や循環に影響を与え、心肺停止の状態につながったのでしょう。

誤った場所にカテーテルが入ってしまっても、適切な対応であれば、このような事故につながる状況を防ぐことが可能です。事故を防ぐために、どのような対策を取っているのか公表している医療機関であれば、十分な観察や対応を期待できる可能性があります。

無痛分娩で使用される硬膜外麻酔の特徴

硬膜外麻酔は、背中からカテーテルを挿入し、硬膜外腔(脊髄を覆う硬膜の外側)に麻酔薬を持続的に投与する方法です。痛みの信号は常に脊髄に集まって脳へ伝わりますが、硬膜外麻酔はその脊髄に作用して痛みの信号をブロックします。

カテーテルから薬剤を追加できるため長時間にわたって効果を持続でき、陣痛の痛みを3分の1程度に軽減しながら、意識のある状態で出産に臨むことが可能です。赤ちゃんへの影響も、あまりないとされています。

欧米で始まった硬膜外麻酔による無痛分娩は、現在では多くの国や施設で第一選択肢として導入されるグローバルスタンダードな方法です。

無痛分娩のメリットと起こりうるリスク

無痛分娩は陣痛への不安が強い妊婦さんにおすすめの方法である一方、麻酔薬を使用することで、さまざまなリスクも起こりえます。ここでは、無痛分娩のメリットと、起こりうるリスクについて解説します。

無痛分娩のメリット

無痛分娩をおこなうと、以下のようなメリットが得られます。

  • 痛みの軽減と安心感につながる
  • 体力が温存され産後の回復がスムーズになる
  • 精神的な余裕により出産時の感動を味わいやすい

最大のメリットである出産時における痛みの軽減は、陣痛による苦痛や疲労などの負担を減らし、精神的にも余裕をもちながら出産に臨めます。体力の温存により、産後の歩行やすぐに始まる育児への余裕も出やすくなります。

誕生の喜びに集中しやすくなり、記憶に残る良い出産体験につながりやすくなるでしょう。

無痛分娩で起こりうるリスク

無痛分娩には痛みの軽減や産後の回復のスムーズさなどのメリットがある一方、以下のような副作用が起こる可能性があります。

  • 足の感覚が鈍くなる、足に力が入りにくくなる
  • 尿意が弱まる、尿が出しにくくなる
  • 血圧が下がる
  • 熱が出る
  • かゆみを生じる

これらの副作用は、多くが一時的で、麻酔の効果が切れるとともに消失するでしょう。ただし、稀な副作用として、頭痛や吐き気を生じる硬膜穿刺後頭痛、血液中の麻酔薬の濃度がとても高くなってしまう局所麻酔薬中毒などが起こる可能性があります。

医師や助産師は、全身の観察やモニタリングをおこないながら、慎重に処置を進めていきます。処置中になにか症状が出た場合には、すぐに医師や助産師に伝えるようにしてください。

なお、日本産科麻酔学会によると、産後の神経の障害を調べた研究では、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔と母親の神経障害には関連を認めないと報告されているとのことです。

安全な無痛分娩に向けた医療機関の選び方

無痛分娩の安全性を考える際には、医療機関の選び方が重要です。選び方を3つ紹介するので、選ぶ際に役立ててください。

医療機関の設備と体制はどうか

無痛分娩を選択するときには、以下の視点で医療機関の設備と体制を確認することが大切です。

  • 麻酔科専門医はいるか
  • 24時間365日対応できるか
  • 緊急時の対応はどうなっているか、母体搬送システムの有無

麻酔科専門医が常駐している医療機関であれば、専門的な知識と技術を備えているため、不具合があった場合にも迅速に対応できるでしょう。

また、施設の検索は「安全で妊産婦の自己決定権を尊重した無痛分娩とその質の向上を実現すること」を目的に設立された団体であるJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)からおこなうのもおすすめです。ここには、その施設の無痛分娩に関する情報公開の状況が基準を満たしていると判断された医療機関のみが掲載されています。

無痛分娩に関する情報が十分に掲載されているため、設備や体制についても確認しやすいといえます。

医療スタッフは経験が豊富で技術がともなっているか

医療スタッフの経験や技術は、安全な無痛分娩に関わるため、以下のポイントに注目して確認してください。

  • 実績
  • 医師の経歴
  • 口コミやレビュー

実績では、無痛分娩の実施件数や成功率などのほか、合併症の出た症例件数が公表されていると、十分に気をつけて処置や観察をおこなっていることがわかります。

口コミやレビューは、実際に体験した人の生の声を知りたい場合におすすめの方法です。入院後の医師や看護師の対応についても確認しやすいでしょう。

施設見学や説明会があるか

施設見学や説明会は、施設や医療スタッフの雰囲気が体感できるほか、無痛分娩の特色や医学的特長、具体的な流れについても把握しやすくなるでしょう。

妊婦さんだけでなく、パートナーが参加できる説明会を開催している医療機関もあります。参加するときは、スタッフの対応や設備の充実度、質問への回答の丁寧さなどに注目して、自分に合った医療機関かどうか判断してください。

まとめ

無痛分娩はお産の痛みを3分の1程度に軽減できるとされる方法ですが、麻酔処置であるために事故のリスクもあります。出産方法を検討するときには、無痛分娩のメリットとリスクを十分に理解したうえで、自身の状況に合わせて判断してください。

無痛分娩の安全性を確保するためには、設備や体制が整っているか、経験豊富な医療スタッフがいるか、施設見学や説明会があるかなどの点で医療機関を慎重に選択することが大切です。

医療機関とコミュニケーションを取りながら、安心して出産に臨める環境を整えていきましょう。

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