Article無痛分娩の割合は?世界的に見ても日本が少ない理由を解説
未分類 2024.11.21
陣痛に不安を感じ、無痛分娩を検討している妊婦さんもいるでしょう。日本における無痛分娩の割合は増えているものの、世界的に見てもまだ高くはありません。その理由には、長年の出産方法へ対する価値観や医療現場側の課題、費用面などが挙げられます。
この記事では、世界と日本の無痛分娩の割合を比較し、日本が少ない理由について詳しく解説します。無痛分娩を選択するメリットや注意点も紹介するので、自分と赤ちゃんにとって最適な出産方法を選択できるよう、ぜひ参考にしてください。
無痛分娩の割合
世界的に見ると、無痛分娩は決して珍しいものではありません。しかし、日本では、その割合は大きく異なり、低い現状です。
まずは、それぞれの割合について紹介します。
世界的な割合
無痛分娩は、世界的に多く選ばれている出産方法です。日本産科麻酔学会によると、各国の無痛分娩の割合は、以下のように記載されています。
国 | 無痛分娩 の割合 |
---|---|
フィンランド | 89% |
フランス | 82.2% (2016年)※1981年は4% |
アメリカ | 73.1%
※州によって |
ベルギー | 68% |
スウェーデン | 66.1% |
イギリス | 60% |
イスラエル | 60% |
カナダ | 57.8% |
シンガポール | 50% |
韓国 | 40% |
ドイツ | 20~30% |
ギリシャ | 20% |
イタリア | 20% |
中国 | 10% |
出典:日本産科麻酔学会|Q19.海外ではどのくらいの女性が硬膜外無痛分娩を受けているのでしょうか?
硬膜外麻酔による無痛分娩は、北米やヨーロッパでは一般的におこなわれていますが、ドイツやギリシャなどでは少なく、欧米でも国によって状況が大きく異なるようです。アジアでは、無痛分娩の割合は高いとはいえませんが、同じ国内でも地域による医療資源の格差がみられるため、上記の数値が各国の状況を表しているとは限らないといえます。
なお、アメリカのミシガン州における日本人の無痛分娩の割合は、63.2%だそうです。
日本での割合
日本での硬膜外麻酔による無痛分娩は増加傾向にあり、厚生労働省の「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について」によると、以下のように推移しています。
出典:厚生労働省|無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について
また、厚生労働省の「令和2(2020)年度医療施設(静態)調査の結果」では、2020年における無痛分娩の割合は8.6%でした。このうち、一般病院は9.4%、一般診療所は7.6%になります。
出典:厚生労働省|令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
近年のデータから見ると、妊婦さんの約12人に1人が、無痛分娩を選択しているといえます。
日本で無痛分娩の割合が低い理由
日本で無痛分娩の割合が低い理由には、以下3つが関与していると考えられます。
- 歴史的背景
- 医療現場側の課題
- 費用面
日本で無痛分娩の割合が低い理由を、それぞれ解説します。
歴史的背景
日本における無痛分娩の割合が低い背景には、古くからある「自然な出産が理想」という価値観にとらわれていることが関与しています。
日本では、陣痛を経験することが母性を育むと考えられていました。おなかを痛めて産んだという経験と子どもへの愛情には関係性があるという価値観が根強くあり、痛みを軽減する無痛分娩は「楽をして出産する」といった偏見につながっていたようです。
しかし、実際はおなかの痛みと愛情への関係性はないとされています。正しい知識の欠如の中、無痛分娩へ否定的な考えをもつ人がいたことで、妊婦さんが選択できなかったことが普及率の低さの一因と考えられます。
医療現場側の課題
無痛分娩に対応できる医療機関が不足していたり、地域差があったりなど、日本の医療現場側の課題も無痛分娩の割合の低さに影響していると考えられます。
無痛分娩では、出産時の血圧低下などのほか、稀に意識を失うなど、重症になるリスクもゼロではありません。欧米などでは、産科医や麻酔科医が常駐する大きな病院で出産できるよう集約化されており、このような状態に迅速に対応できるようになっています。
一方で、日本は小規模の医療機関が多く、麻酔科医が足りずに対応できないといったケースもあります。過去には、無痛分娩で死亡や障害につながった事故が報道されたこともあり、安全性に不安をもつ人もいるでしょう。
そこで、日本で設立されたのが、安全で妊産婦さんの自己決定権を尊重した無痛分娩と、その質の向上を実現することを目的とした「JALA」という団体です。JALAの公式Webサイトでは「無痛分娩に関する情報公開の状況が基準を満たしている」と判断された、無痛分娩を実施する医療機関を検索できます。
掲載されている無痛分娩が可能な医療機関を見ると、おもに三大都市圏などに多く存在しています。地方ではまだ少なく、居住する地域によっては無痛分娩を選択できない妊婦さんもいるでしょう。
費用の高さ
自己負担額の大きさも、無痛分娩の割合の低さにつながっている要因の一つです。アメリカやフランスでは、無痛分娩は医療保険が適用され、自己負担なく選べます。
しかし、日本では、出産育児一時金(50万円)などの制度があるものの、自然分娩の費用は保険適用外で、自己負担しなければなりません。
医療機関や地域によっても異なりますが、無痛分娩は麻酔などの処置や管理を必要とする分、約15万~20万円高くなるでしょう。休職中の収入面での不安や、今後の育児にかかる出費なども考え、躊躇する妊婦さんも多くいます。
無痛分娩を選択するメリット
無痛分娩を選択すると、痛みの軽減や体力の温存、精神的な余裕などのメリットが得られます。特に、陣痛に不安の強い初産婦さんや、過去の分娩でつらい思いをした経産婦さんにおすすめの出産方法です。
それぞれのメリットを解説します。
痛みの軽減
無痛分娩を選択する最大のメリットである痛みの軽減は、硬膜外麻酔の使用で3分の1程度に抑えられるとされています。痛みの感じ方は産婦さんによっても異なりますが、「腰が砕けそう」と表現する人もいます。
痛みを軽減することで、体の緊張感もほぐれ、よりリラックスした状態で出産に臨めるでしょう。
体力の温存
無痛分娩で体力が温存できると、産後の回復がスムーズになったり、育児をするための余力を残せたりします。出産では多くの体力を消耗しやすく、産前の体力に戻るまで、3カ月から1年ほどかかったと感じる場合もあるようです。
痛みを抑えて気力や体力を温存することで、疲労が強い場合と比べて、産後も前向きに過ごしやすくなります。
精神的な余裕
無痛分娩で痛みが軽減できると、精神的に余裕をもちやすくなります。
立ち会い出産の場合には、パートナーと落ち着いてコミュニケーションが取れるでしょう。出産に対する不安や喜びを分かち合い、互いに支え合うことで、より良いお産の体験につながります。
また、赤ちゃんと対面する瞬間も、穏やかに迎えられます。
無痛分娩の注意点
無痛分娩は出産時の痛みをやわらげ、快適なお産をサポートする有効な手段となりえますが、いくつかの注意点もあります。すべての産婦さんに起こるわけではありませんが、可能性については把握しておきましょう。
注意点をそれぞれ解説します。
副作用が出る可能性
無痛分娩では麻酔薬の使用や処置によって、一時的に以下の副作用が起こる可能性があります。
- 足がしびれる
- 熱が出る
- 血圧が下がる
- 頭痛がする
- かゆみが出る
また、稀に、起き上がったときに頭痛や吐き気を生じる硬膜穿刺後頭痛や、麻酔の血中濃度が上昇してさまざまな症状を引き起こす局所麻酔薬中毒といった副作用も起こりえます。副作用はすべての人に起こるわけではありませんが、麻酔科医が在籍している医療機関であれば、適切かつ迅速な対応を受けやすくなります。
分娩時間への影響
無痛分娩では、麻酔の影響で陣痛が弱まり、分娩の進行が遅くなる場合があります。麻酔の使用によっていきむ力が弱くなる、骨盤の筋肉が緩んで赤ちゃんの産道への通過に影響が出るといったことが要因となり、陣痛促進剤の使用や鉗子分娩・吸引分娩が必要になるケースもあるでしょう。
処置の必要性は、妊婦さんの状況や赤ちゃんの状態によって異なりますが、無痛分娩が赤ちゃんに与える影響はあまりないとされています。
麻酔効果が追いつかない場合もある
以下のようなケースでは、無痛分娩で麻酔の効果が追い付かない場合もあります。
- 経産婦
- 分娩の進行が急激
- 麻酔の効果が出にくい体質
あらかじめ想定される場合には、医療機関が早めの来院をお願いすることもあります。陣痛が来たり、破水したりした場合には、すぐに医療機関に連絡し、指示を仰ぎましょう。
まとめ
無痛分娩は、世界的に見ると決して珍しいものではありませんが、日本ではまだ割合は低い状況です。しかし、日本でも年々、無痛分娩を選択する人は増加してきています。
無痛分娩は、お産の痛みを3分の1程度に軽減できるとされるため、体力が温存できたり、精神的な余裕が生まれたりするメリットがあります。
副作用のリスクや分娩時間への影響など、把握しておかなければならない注意点もあります。満足するお産ができるよう、正しく特徴を理解したうえで出産方法を検討しましょう。