無痛分娩の割合は?
無痛分娩が普及しない4つ理由

無痛分娩の割合は?<br>無痛分娩が普及しない4つ理由

近年、無痛分娩を選択することが増えていますが、日本においての割合と海外での割合についてどのような違いがあるのでしょうか。この記事では、無痛分娩の割合とその背景、なぜ無痛分娩が普及しにくいのか、その理由について詳しく解説します。

日本における無痛分娩の割合

日本において、無痛分娩は自然分娩に比べて割合がとても少ないといえます。周りの知り合いの方に聞いても、無痛分娩を選択した方はなかなかいないのではないでしょうか。 2023年に発表された日本産婦人科医会の『無痛分娩 産科施設の立場から ~日本産婦人科医会施設情報からの解析~』によると、無痛分娩の割合は2018年では5.2%、2023年では11.6%となっています。

全分娩数に占める無痛分娩の件数 総分娩数に占める無痛分娩数の割合の年次推移

出産費用(正常分娩)の推移


地域差について

日本国内において、地域によって無痛分娩の割合も大きく変わっています。

全分娩数に占める無痛分娩率

全分娩数に占める無痛分娩の件数

出典:無痛分娩 産科施設の立場から ~日本産婦人科医会施設情報からの解析~

このグラフをみると、東京や大阪などの大都市では30%を超える割合で無痛分娩が行われているのに対し、地方都市や田舎では10%未満というところも少なくありません。このような差が生まれるのは、医療資源の集中度や地域に根ざした出産に対する価値観の違いがあります。また、無痛分娩を希望していても、施設や医師によって対応できるケースが限られていることも普及率に影響を与えています。

世界各国の無痛分娩の割合

次に世界各国の無痛分娩の割合を見ていきましょう。世界を見渡すと、無痛分娩の割合には大きな差があります。次の表をみてください。フランスでは82.2%、アメリカでは約73.1%、イギリスでは約60%の出産が無痛分娩で行われていますが、これに対してアジアの一部の国々では、まだ20%以下というところも珍しくありません。
アジア 日本:10%
中国:10%
韓国:40%
シンガポール:50%
イスラエル:60%
ヨーロッパ フランス:82.2%
イギリス:60%
スウェーデン:66.1%
フィンランド:89%
イタリア:20%
ドイツ:20~30%
北アメリカ アメリカ:73.1%
カナダ:57.8%

参考:一般社団法人日本産科麻酔学会JSOAP

国ごとでの違いは、医療技術の進歩や保険制度の違い、文化的な背景に深く根ざしています。特に欧米やヨーロッパでは、出産の選択肢として無痛分娩が積極的に推奨されており、多くの女性が痛みを管理する方法として無痛分娩を選択しています。ただし、同じヨーロッパであってもギリシャやイタリアのように割合が少ない国もあります。

各国の文化や医療政策が無痛分娩の割合に与える影響は大きいといえます。スウェーデンでは出産の痛みを管理することに対する教育が充実しており、多くの妊婦が情報に基づいた選択を行っています。
一方で一部のアジアの国では伝統的な価値観が強く残っており、自然分娩が推奨されることが多いようです。このように、文化的な価値観や政策、教育の差が無痛分娩の普及に直結しているといえます。

無痛分娩が普及しにくい理由

これまで日本においての無痛分娩の普及割合や世界の割合を詳しくみてきましたが、ではなぜ、日本において無痛分娩が広く普及していないのでしょうか。その理由は大きく分けて4つあります。1つずつ説明していきます。
  • 文化的な背景・考え方
  • 医療体制の成約
  • 経済的な原因
  • 無痛分娩に対する誤解

文化的な背景・考え方

文化的な背景・考え方

昔より出産に対する価値観として「出産は痛いもの」「何もないなら自然分娩が普通」というものがあります。痛い思いをしてこそ母親になれる、という考え方が根強く残っており、「無痛分娩は甘え」と捉えられる場合もあります。
また、近年では無痛分娩が増えていることから分かるように、若い世代にとっては選択肢の一つとして受け入れられるようになってきました。しかし、無痛分娩を希望していても親世代に止められるケースも多々あります。

こういった昔からの背景や考え方が無痛分娩の普及を妨げている原因です。

医療体制の制約

医療体制の制約

無痛分娩はすべての産院で対応しているわけではなく、普及しにくい要因として「医療体制」も考えられます。無痛分娩を行うためには、麻酔科医が必要ですが、不足している現状があります。産科医が麻酔を兼任している場合もありますが、産科業務に加えて麻酔業務も増えるため、負担が大きくなってしまいます。

特に地方においては麻酔科医不足が顕著となっており、結果として無痛分娩を提供できる医療機関が限られてしまいます。

経済的な要因

経済的な要因

無痛分娩にかかる費用は、自然分娩の費用に加えて10万〜20万円ほどかかります。産院や地域によっても金額は変わってきますが、無痛分娩は保険適用外で全額自己負担となり、自然分娩よりも高くなるのは間違いありません。出産には、出産費用以外にも出産後の生活や赤ちゃん用品を買いそろえるなどで費用がかかってきます。そのため、経済的な理由によって無痛分娩を選択できない場合もあります。

情報の不足と危険性

情報の不足と危険性

無痛分娩は、自然分娩に比べて分娩数が少ないことから正確な情報が十分に提供されていないということがあります。無痛分娩は確立された医療行為でありますが、麻酔を使うことへの危険性など不安に感じている人も多くいる現状があります。

また、無痛分娩に対する誤解が根強く、それが不安感を煽り、避けられる理由となっています。正確な情報が提供され、理解が進むことで、より多くの妊婦が無痛分娩を選択する可能性が高まります。

まとめ

日本における無痛分娩の割合は依然として低く、2018年の5.2%から2023年には11.6%に増加したものの、全体の約1割に留まっています。この低い普及率は、文化的要因や医療体制が大きく影響していると考えられます。特に地方においては無痛分娩が普及しておらず、大都市部との間に大きな差があります。一方、国際的に見ると、フランスやアメリカなどでは無痛分娩が非常に高い割合で行われていますが、アジアの一部の国々ではまだ20%以下と低い状態です。

無痛分娩は安心して出産を行うための手段です。検討する際の参考にしてください。