出産の痛みに不安や恐怖を感じ、無痛分娩を選択肢として検討しているという人も多くいるのではないでしょうか。しかし無痛分娩は完全に痛みをなくすものではなく、痛みを和らげる出産方法です。この記事では無痛分娩の麻酔の種類や無痛分娩で痛みを感じる理由について紹介します。ぜひ参考にしてください。
無痛分娩について
無痛分娩とは、出産時の痛みを麻酔を使って和らげる出産方法です。自然分娩と比べて分娩数は1割程度とまだ少ないものの、年々増えてきています。出産による痛みは個人差が大きく、不安や恐怖を抱える妊婦さんも少なくありません。母体へのストレスなく、出産を穏やかに迎えるためにも、無痛分娩は選択の一つになっています。
また、無痛分娩を行うことで体力の消耗を抑える効果が期待できます。出産後、体力の回復を早める助けとなることも多いでしょう。
痛みを管理する麻酔の種類
無痛分娩の麻酔は一般的に硬膜外麻酔を使用しますが、場合によっては脊髄くも膜下麻酔を併用して行います。これらの麻酔は、出産時の痛みを感じる神経への信号をブロックすることで効果を発揮します。また、点滴による静寂麻酔を行う場合もあります。麻酔によって痛みが和らぐことで、不安やストレスも軽減され、落ち着いて出産を迎えることができます。
次にそれぞれの麻酔について説明します。
硬膜外麻酔
背中からカテーテルを挿入して、背骨の外側にある硬膜外空間に局所麻酔薬を持続的に注入する方法です。出産が終わるまでカテーテルが入った状態なので、出産の進み具合に合わせて痛みをある程度調整することができます。硬膜外麻酔の場合は下半身の麻痺もなく、感覚のみを鈍くすることが目的で、意識のある、はっきりしている状態で出産ができます。
脊髄くも膜下麻酔
硬膜外麻酔と同じ針穴から出る専用の針を通して、脊髄くも膜下腔に麻酔薬を注入する方法です。
この麻酔は硬膜外麻酔と比べて、迅速に効果を得ることができます。この方法は出産の進行が早い状況など、早急に麻酔効果が必要な場合に併用されます。
静寂麻酔
静寂麻酔は、点滴による麻酔方法です。硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔と比べても効果は弱く、他の方法が難しい場合に採用されます。
なぜ無痛分娩で痛みを感じるの?
無痛分娩とはいえ、全く痛みがなくなるというわけではありません。「思ったより痛かった」「それなりに痛みがあった」という人がほとんどではないでしょうか。無痛分娩は別名「和痛分娩」といい、痛みを和らげる効果が得られる方法です。現在では、自然分娩のときの痛みを10とした場合、無痛分娩は3くらいの痛みといわれています。
なぜ無痛分娩のときに痛みを感じるのでしょうか。その理由を紹介します。
麻酔を入れるときの痛み
先ほど無痛分娩のときに使用する麻酔の種類を紹介しましたが、「背中にカテーテルを入れるって痛くないの?」と思う人もいるのでしょう。背中にカテーテルといった柔らかい管を入れますが、そのカテーテルを入れるための麻酔注射で少し痛みを感じます。
そのため、麻酔注射を行う際には痛みを弱める姿勢で行います。その姿勢は『背中を丸めた状態』です。麻酔注射は背骨と背骨の隙間にするため、背中を丸めた姿勢は背骨の隙間が大きくなります。麻酔注射が入りやすくなり、注射にかかる時間も短くなります。
麻酔を入れるタイミング
無痛分娩は、あらかじめ出産日を決める「計画無痛分娩」で行う場合が多いです。その場合、陣痛を誘発する陣痛促進剤を使うケースが多く、人工的に陣痛を起こします。
そして陣痛は進み、子宮口が3〜5cm開いた頃を目安に麻酔を注入します。
麻酔を入れるタイミングは、産院や産科医、妊婦さんの状態、分娩の進み具合によっても異なるため、一概には言えません。
麻酔が効き始めるまで10分~15分
一般的に使用される硬膜外麻酔は、即効性はなく10分〜15分ほどかけてゆっくり効いてきます。そのためお産の進み具合が早い場合によって、麻酔が効く前に子宮が開き、痛みを強く感じるといった場合もあります。
また自然分娩の場合、陣痛が進まない場合には陣痛促進剤を使用します。これにより急激に分娩が進むと麻酔が間に合わないケースもあります。
しかし、基本的には産科医や麻酔科医が細心の注意を払って管理し、状況をみながら麻酔を調整していきます。そのため、痛みを最小限に抑えることができるでしょう。
痛みを残しておく
出産時におこる陣痛は、赤ちゃんを押し出す力です。無痛分娩で完全に痛みがなくなってしまうと、いきむタイミングがわからなくなります。
そのため、麻酔の量を調整してある程度の痛みを残して分娩を行います。
陣痛の場所と痛み
自然分娩の場合も無痛分娩の場合も、陣痛の場所や痛みを感じる場所は変わりません。下の図をご覧ください。
陣痛の場所と強さ
お産の進行にともない、痛みの場所や程度が徐々に変わってきます。
参考:日本産科麻酔学会
陣痛の場所、痛みは次の表の通りです。
分娩第1期はじめ |
◎お腹の下から腰にかけて痛みがでる
◎生理痛のような痛み
◎お腹をくだしているような痛み
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分娩第1期おわり |
◎子宮が半分ぐらい開くと、急に痛みが強くなる
◎痛みを感じる範囲が広くなる
◎おへその下から腰全体、外陰部にかけて強く痛む
◎腰が砕かれるような痛み
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分娩第2期はじめ |
◎子宮が完全に開く
◎外陰部から肛門へ痛みが強くなる
◎赤ちゃんの体の一部が子宮から出てくる
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赤ちゃんがうまれるとき |
◎外陰部から肛門へ痛みが最大になる
◎焼けつくような痛み
◎強い力で引っ張られる
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無痛分娩の場合は、麻酔を入れているため自然分娩ほど強い痛みは感じませんが、いきむタイミングが分かるぐらいには痛みは残っていることがほとんどです。
まとめ
無痛分娩は出産の痛みを和らげる出産方法ですが、完全に痛みがなくなるわけではありません。痛みの感じ方も人によって大きく異なりますが、痛みが苦手な人にとっても無痛分娩はより安心して出産に臨むことができます。麻酔を注入した後も、痛みが大きいようでしたら産科医や麻酔科医に相談するようにしてください。